クラッシェンのモニターモデルとは?今の英語学習方法は正しいのか

クラッシェンのモニターモデルとは?今の英語学習方法は正しいのか

クラッシェンのモニターモデル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。英語に関わる教育者であれば知っていると思いますが、ふつうの英語学習者では知らない人も多いのではないかと思います。

これはクラッシェンという言語学者・教育学者が唱えたもので、以降の第二言語習得論に大きな影響を与えた説です。

英語を学ぶうえで必ず知らなければならないものではないですが、大まかにでも知っておくことにより「自分の今やっている学習方法は正しいのか?」とか「もっと有効な学習方法は?」などと悩んでいる人にとって損はしない知識になるかと思います。

直接的な学習法を紹介するわけではないですが、興味がある人はぜひ目を通しておいてください。

スティーヴン・クラッシェンについて

スティーヴン・クラッシェンについて

スティーヴン・クラッシェン(Stephen Krashen)は、南カリフォルニア大学の名誉教授。第二言語習得研究(SLA)をはじめとする言語の研究で、数々の受賞履歴を持つ研究者です。1941年、イリノイ州・シカゴ生まれ。1972年にUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて言語学の博士号を取得しています。

もう80歳を過ぎている、言ってしまえばおじいちゃんながら、現在もまだ現役なよう。これまでにバイリンガル教育・神経言語学・読書教育論などの多くの仮説を提唱してきており、1993年に「The power of reading」、近いところでは2011年に「Free Voluntary Reading」を出版しています。

彼は1977年頃に第二言語習得の理論を考案、1985年に初めて発表しました。これはインプット仮説(input hypothesis)、またはモニターモデル(monitor model)と呼ばれSLA(second language acquisition)研究における基礎の全てとまで言われています。

この理論は1980年代という今から見るとだいぶ古い時代に発表されたため、今までに多くの反論や批判にもさらされてきたという事実も否定できません。ですが現在では幾つかの修正が加えられつつ、根本的な部分は今でも第二言語習得論の前提になっています。

また彼の仮説はアメリカのスペイン語教師、テレル(T.Terrell)によってさらに発展。それ以降「ナチュラル・アプローチ(Narurel approach)」と呼ばれる教授法になり、日本における現在の英語教育法にも大きな影響を与えているようです。

YouTubeで本人が詳しく解説している講演の貴重な動画があります。

Youtubeで見る① Youtubeで見る② Youtubeで見る③

第二言語習得研究とは

第二言語習得研究とは

第二言語習得とはそもそも何か、という話もしていきたいと思います。第一言語習得との違いは以下のようになりますね。

①すでに1つの言語体系を獲得している。
②すでに認知能力が発達している。
③習得の状況には個人差がある。

まっさらの状態から習得するのと、すでに日本語を習得している我々が英語を学ぶのとでは大きく違うということですね。

第一言語以外の言語を学習するときに、人がどのように学んで言語を習得していくのか、そのプロセスやメカニズムを研究するのが第二言語習得研究です。

もちろん第一言語習得研究というのもありますし、ほかにも言語学・神経科学・心理学・社会学などと関わりが深い研究分野です。

第二言語習得に関する5つの仮説

第二言語習得に関する5つの仮説

第二言語習得論とは、母語以外の外国語(例えば私たち日本人にとっての英語)を学ぶときにどのような特徴があり、どうすれば習得できるかを示すための理論です。ではクラッシェンが打ち出した第二言語習得に関する5つの有名な仮説、いわゆるモニターモデルとはどのようなものなのでしょうか。下記の5つがそれにあたるものです。

①習得・学習仮説(the Acquisition-learning hypothesis)
②自然習得仮説 (the natural order hypothesis)
③モニター仮説 (the Monitor hypothesis)
④インプット仮説 (the Input hypothesis)
⑤情意フィルター仮説 (the Affective filter hypothesis)

それぞれについて解説していきましょう。

①習得・学習仮説(the Acquisition-learning hypothesis)

習得・学習仮説(the Acquisition-learning hypothesis)は、5つの仮説の中で最も基礎的な説と言われています。簡単に言うと、言語の「習得(acquisition)」と「学習(learning)」は違うよ、という説です。これは「無意識か意識的か」という違いで表されます。

「Learning does not turn into acquisition(学習は習得に変わらない)」
-クラッシェン

クラッシェンは「習得」は無意識のプロセスであるとしています。これは赤ちゃんが母語を自然に覚えていく過程と同じです。家族や周りの人の言葉を真似して言葉が話せるようになる、というやつですね。関西に引っ越したら関西弁が移ってしまった、というのにも似ています。

一方、「学習」は意識的に身につけようとすることです。クラッシェンはこの「習得」と「学習」は全く別のもの、違うプロセスであると考えました。そして、いくら学習しても習得には繋がらない、つまり話せるようにはならないという説を唱えたのです。これを「ノン・インターフェイス仮説」といいます。

こんなことを言われた日には、われわれ英語学習者の立場としては「ええ~!!」と思いますよね。実際この仮説には、実証性に乏しいとか区別をどうつけるのかが分からないなど様々な批判も出ています。学習で最低限の文法知識をインプットしておかないと話す知識は得られないと考える人は多いはずです。「努力して意識的に文法を勉強したら、英語を理解できるようになった」という人が多いという事実とも矛盾するという指摘をしている人もいます。

クラッシェンも学習が全く無意味だと言っているわけではありません。ただ、学習で得た知識はあくまで発話が正しいかどうか「モニター」チェックするのみの機能しか持っていないという旨のことを言っています。

一方でクラッシェンは「大人でも習得は可能」とも言っています。それまでの言語学者は「大人になると子供の頃のような自然な習得は不可能」という人もいました。どちらかというと現在もそのほうが一般的な認知ではないでしょうか。クラッシェンは習得と学習は違うとしたうえで、大人でも「学習」に頼らずに「習得」をすることは可能だと説いたのです。

②自然習得仮説 (the natural order hypothesis)

自然習得仮説 (the natural order hypothesis)、または自然順序仮説と呼ばれるのが次の説です。これは「言語習得には習得のための自然で普遍的な順序がある」という仮説。読んで字のごとくですね。

この説では、学習者の年齢・母語・地域が異なっていても習得に一定の順序があるとされています。さらに教えた順番には関係なく、先に使えるようになるものはなるとも説かれています。例えば「進行形(~ing)」や「複数形(~s)」は早い段階で習得され、「3人称単数のs」や「所有格のs」はそれより遅いといった具合です。また簡単に「学習」できるものが、最初に「習得」できるとは限らないとも言っています。

この説にもやはり批判があります。普遍的な順序などというものはなく、学習者の第一言語の影響を受け異なってくるのではないかなどという声です。特に日本人の場合「複数」と「冠詞」の習得が遅いという特徴が見られます。これはこれらの要素が日本語にはないからである、つまり第二言語習得には母語の影響があるという考え方です。

③モニター仮説 (the Monitor hypothesis)

次は「モニター仮説 (the Monitor hypothesis)」です。これは①習得・学習仮説の項でもちらっと触れたように、学習で得た知識はあくまで発話が正しいかどうか「モニター」チェックするのみの機能しか持っていないという説。言い換えると、「学習」によって学んだ知識は学習者が第二言語をアウトプットしようとした時に軌道修正する役割しか果たさないという仮説です。

「学習は発話自体の能力向上にはつながらない」というネガティブな論調に聞こえてしまいますが、「発話・アウトプットの修正や改善において学習が役立つ」という言い方もできます。主語が三人称単数だから動詞にはsを付けよう、といった具合ですね。

ただこのモニター機能が発動するには条件があるといいます。

①十分な時間があること。

②適切な言語の規則を認識していること。

③言語形式に焦点が当てられていること。

ざっくり言えば、このモニター機能は机の上で勉強しているようなときでしか有効ではないということです。実際に相手と会話しているときに「三単現のsが…」なんて考えている余裕はないですよね。

自分の文法についてチェックできるようにはなりますが、「モニター機能が働きすぎると話せなくなり、会話の妨げになる」という旨のことをクラッシェンも言っています。文法が合っているか気にしすぎるとぎこちなくなり、自然な会話ができなくなる、というわけですね。

④インプット仮説 (the Input hypothesis)

インプット仮説 (the Input hypothesis)は、クラッシェン自身が5つの中で最も重要だとしている説です。学習者の現在の能力レベルを「i」としたとき、現在のレベルよりも少しだけ高いレベル「i+1」を含む理解可能なインプット(Comprehensible Input)こそが最も大事であるというのが大筋。

インプットであれば何でもよいわけではない、あくまで「理解可能なインプット」が重要だというのがひとつ。もうひとつは、アウトプットは言語能力の向上には影響しないという考え方です。

当然、この論にも批判が多くあります。「いや、アウトプットも重要だろ」というのは我々でも思ってしまうところではないでしょうか。当サイトでもアウトプットの重要性についてはさんざん触れてきています(もちろんインプットもですが)。

ただ、インプットの重要性を高めたという意味ではこの説の持った役割は大きいといえます。

⑤情意フィルター仮説 (the Affective filter hypothesis)

最後は、情意フィルター仮説 (the Affective filter hypothesis)。感情的な要因がいかに第二言語習得に影響を及ぼすかを説明した仮説です。「苦手」「不安」「自信がない」といったマイナス感情はインプットを妨げるというのが大意。逆に、自信があればあるほど情意フィルターは低くなり言語習得に成功しやすくなるということでもあります。

クラッシェンが唱える第二言語習得の成功に関わる感情として「Motivation(動機付け)」「Self-confidence(自信)」「Anxiety(不安)」の3つがあります。要は、動機や自信が強ければ成功しやすいし、不安な気持ちが強いと妨げになるということですね。

まとめ

まとめ

今回はクラッシェンのモニターモデルについて解説してきました。

読んでいただいた方は分かると思いますが、この論には批判も多いです。しかし、この論が母体となって生まれた教育法も数多く、今なお第二言語習得に関する理論の基盤となっていることからも、この論の重要性が見えてくると思います。

英語学習を進めている人であれば、今回の内容から自分が学んでいく方法や道筋などが見えてくるでしょう。知っておいて損はないですし、何かの折にまた読み返していただければ違う発見があるかもしれませんよ。

BRIT編集部
【この記事を書いた人】BRIT編集部 大人のための英会話の勉強方法や話題の英語教材をご紹介しています。
TOPページを見る
本日のおすすめ英語教材はこちら
英語学習の関連記事一覧
英語学習の記事をもっと見る TOPページを見る