英語学習におけるインプットの重要性について改めて考えてみよう

英語学習におけるインプットの重要性について改めて考えてみよう

日本の学校教育における英語学習の問題点として「アウトプットが足りない」という話はよく聞きます。

実際に当サイトでもアウトプットの重要性については何回も指摘してきました。日本人の英語学習にアウトプットの機会がもっと必要だという意見に間違いはないと考えます。(下記記事も参照してください)

しかし同時に、インプット式の学習をおろそかにしていいというわけではないという説明もしてきました。英語の技能はスピーキングだけでなくリーディング・ライティング・リスニングも合わせた4つを全て訓練する必要があり、それらが互いに影響しあって英会話としての能力になるからです。

今回は改めて英語学習におけるインプットの重要性や効果的な学習方法について考えていきましょう。

英語学習におけるインプットとは

英語学習におけるインプットとは

英語学習におけるインプットとは何かと問われれば、単語や文法の記憶やリーディング・リスニングなど「英語で情報を頭に入れるトレーニングのこと」という答えになるでしょう。反対にアウトプットはライティングやスピーキングなどになりますね。

さてここで考えておきたいのが、アウトプットというのは自ら持っている知識やスキルを運用して発信することです。つまり、自分の中に無いものはアウトプットできないのです。当たり前のようですが、ここを無視してインプットよりアウトプットの学習を増やせなどということはできません。

言い方を変えれば「アウトプットをするためにインプットをする」ということもできるでしょう。

日本人はインプットが足りていない?

日本人はインプットが足りていない?

日本の英語教育はアウトプットの機会が足りないと、近年では常識のように言われています。社会人になってから英語を勉強し直そうという人達もその多くが「その通りだ」と思い、英会話スクールやオンライン英会話に通おうとします。

もちろんそれが悪いというわけではありませんが、ではそもそも日本人のインプットは十分に足りているのでしょうか?

英語ができない日本人はインプットが足りていない

日本の英語学習ではライティングやリーディングに重きが置かれているため、それらの点数は高い(けど話せない)と言われることもあります。確かに学校の授業では暗記・記憶の学習がほとんどだったという人が多いのではないでしょうか。

では、日本人の英語インプットはもう十分なのかという話になりますが、実際は足りていないことが多いのではないかと思います。

「ええ!?あんなに勉強したのに?」と思うかもしれませんが、ではその勉強したものが完璧に身についていると言い切れる人はどれだけいるでしょうか?

例えばですが、英語教育者の方で「やはりインプットよりアウトプットが重要だ。TOEIC600点も取れたなら、あとはアウトプット7割・あとは机で英語の勉強くらいがベスト」と言う人もいます。しかしこれを逆に考えてみれば「TOEIC600点程度取れるくらいのインプットは必要だ」と言っているのと同じことです。

文法力と単語力が不足している状態では、多読をしたり多量のリスニングをしたとしても効果は出にくいものです。ましてやアウトプットとなると、そもそもの前提としてアウトプットできるものが無い状態なわけです。

つまり、日本人はインプットが足りているどころかもっと大量にインプットしなければならない状態なわけです。

具体的には、中学英語を完全にマスターするくらいには最低限なっておきたいところです。中学英語の重要性については下記記事を参考にしてください。

もちろんもっと英語力を上達させたい人は中学英語以上のインプットをしなければなりません。教科書には出てこない口語的な言い回しや、スラング的な表現なども吸収したいところです。

インプットが足りないとどうなるか

ある程度インプットができてアウトプットに費やす割合が増えてきたとしても、継続してインプットの勉強は行うべきです。

インプットが足りないと、いつも同じ単語や言い回し・表現でしか会話できなくなってしまいますし、会話重視のレッスンに参加してもなかなか効果を感じることができません。

インプットの量を増やさないと、アウトプットできる量も増やすことはできないのです。

第二言語習得学におけるインプットに関する仮説

第二言語習得学におけるインプットに関する仮説

さて、ここで学術的観点からのインプットに関する仮説について知っていきましょう。

クラッシェンの「インプット仮説」

第二言語習得学(Second Language Acquisition)という、外国語習得を研究する学問があります。人々が第二言語を学ぶプロセスやメカニズムを研究するのですが、有名な研究者としてアメリカのスティーヴン・クラッシェン(Stephen Krashen)がいます。

彼が唱えたのが「インプット仮説(The input hypothesis)」と呼ばれるもので、ざっくり説明すると「外国語の習得では話したり書いたりすることはあまり必要なく、大事なのはインプットだ」というものです。語学をマスターするのに書く・話すは必要ないと言い切ったわけです。

そしてこの理論のもう一つのポイントは、自分のレベルよりも少しだけレベルが高いインプット=理解可能なインプット(Comprehensible Input)をたくさん仕入れることが重要だということです。

これにより、外国語習得は自然的な順序に沿って進歩するものだと彼は主張しました。またこの説をさらに発展させ、「話すことは習得の結果であり原因ではないため、話す能力は直接教えることはできず、理解可能なインプットの結果として自然に表出するものだ」という主張も行いました。

また「アウトプットそのもののトレーニングは第二言語能力の向上には影響せず、自然的な順序に沿って理解可能なインプットが与えられていくことで文法は自動で習得されるため、文法事項を意識的に教育する必要はない」ということも併せて主張。第二言語習得におけるアウトプットの必要性を完全に否定したわけです。

インプット仮説への反論

このインプット仮説に関しては、素人である我々から見ても少し極端ではないかという風に見えます。実際、他の研究者からはいくつもの反論が出てきました。マイケル・H・ロングが提唱した「インタラクション仮説(相互交流仮説)」と、メリル・スウェイン(Merrill Swain)が提唱した「アウトプット仮説(The Output Hypothesis)」です。

インタラクション仮説とは

インタラクション仮説(相互交流仮説)とは、第二言語習得は対象言語を用いたフェイスtoフェイスの相互交流によって促進されるとする仮説です。アウトプットは不要ではなく必要で、相互交流=コミュニケーションが重要というわけですね。

この仮説では「理解可能なインプット」は、やはり重要だとされています。そして「negotiate for meaning(意味の交渉)」をすることによって効果が促進すると主張されました。

少し難しくなってきましたが、あえて簡単に説明すると「お互いに理解しようと努力(交渉)すること、そしてコミュニケーションが必要だよね」ということです。

こうした相互交流のおかげで色々なことに気づき、より理解が深まるというわけです。ロング氏のこの理論は言語指導の現場にも影響を与え、現在でも支持されています。

アウトプット仮説とは

一方、メリル・スウェインの「アウトプット仮説」は「第二言語習得においてはインプットだけでは十分ではなく話す・書くといったアウトプットも必要である」という、もう少し分かりやすいものです。

重要なのはインプットだけでは「不十分」としていることで、インプットの重要性を否定しているわけではないことです。そのうえで、アウトプットを行うことによって「Noticing function(気づき機能)」や「Hypothesis-testing function(仮説検証機能)」「Metalinguistic function(メタ言語的機能)」などの有効な効果を得られるとされています。

インプットの重要性は変わらない

インプット仮説に対する反論を2件紹介しましたが、どちらにも共通しているのは「インプットの重要性は変わらない」ということです。

そのうえでインプットだけでは完全とはいえず、アウトプットを効果的に行うことによって学習効果が生まれるという主張なわけですね。

インプットの重要性を第二言語習得から考えてみよう

インプットの重要性を第二言語習得から考えてみよう

第二言語習得の専門家スーザン・ガス(Susan M. Gass)は、学習者は「インプット気づき(Noticed Input)→理解(Comprehended Input)→内在化(Intake)→統合(Integration)という4つのプロセスを経て、アウトプットができるようになるという説を提唱しました。

インプット(情報源に触れているが、気づいていない状態)から、気づき(インプットに注意が向いている状態、情報を短期記憶に保存し覚えようとしている状態)へ移行し、理解(保持した情報から使い方や規則の仮説を立てられる状態)を経て、内在化(理解した情報を自身の中間言語(※)へ取り込む状態)して、統合(長期記憶として貯蔵しし自動で処理できるようになった状態)に至ります。

※中間言語とは、人が第二言語を習得する過程で使用する不完全な言語のこと。発音や文法、単語の選択が間違っていたりする状態の言語のことです。

何やら難しい、と思うかもしれませんが、これが意味するところは「ただインプットするだけではダメだ」ということです。

英語を身につける過程の話になるとき、「ネイティブの子供たちは毎日、英語をシャワーのように浴びている。そんな環境は望めない以上、違う方法で学習する必要がある」などと言われたりします。

これはある意味真実で、子供だから覚えやすいとか大人は覚えにくいとか以前にただ英語を大量にインプットしてもそこに目的意識がなければ身にはつかないということです。この理論からすると「ただ流し聴きするだけで驚くほど英語が身につく」などという教材は厳密には存在しないということになります。

またインプットを大量に行うメリットとして、予測文法が身につくという点も挙げられます。

人は言葉や文章を受けたときに、次にどんな内容が来るかを仮説を立てながらインプットし、同時にそれを検証するという作業を無意識に行っています。「I am afraid..」から始まる言葉を聞きはじめた瞬間に「何か悪い話が来るな」ということを予測したりとか、そういうことですね。

このような予測文法は、大量のインプットをすることによってより多く身につけることができます。その結果インプットのスピードが上がったり、インプットした情報の意味を理解するのにより多くの意識のリソースを割くことができるようになり、リーディング力やリスニング力など英語の技能が全体的に向上します。

まとめ

まとめ

今回は英語におけるインプットの重要性についてお話ししました。

アウトプットの重要性を説くのは重要なことです。ですが昨今「アウトプットが大事だから」といって英会話スクールに通ったりする人の中には、スクールに通う以外の日常でインプット=勉強を全然していない人もいるようです。結果「スクールに通ってみたけど全然話せるようにならなかった…」などということが起きるのでしょう。

確かに日本の英語教育ではアウトプットが疎かになっていた時期が長かったのは事実。ですが、単語や文法を覚えたり長文問題を解いたりする勉強が全く意味がないと思うのは大間違いです。

発音やスピーキングなど、今まで重要視されてこなかった部分を見つめ直すのは重要。だからといって、必要最低限のインプット学習を「しなくていいもの」などと勘違いせず、バランスよく英語学習を進めていきましょう。

BRIT編集部
【この記事を書いた人】BRIT編集部 大人のための英会話の勉強方法や話題の英語教材をご紹介しています。
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